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戦後の日本は、環境よりも経済発展を優先させてきました。
高速道路や新幹線、ダムや火力発電所などの大型人工物をつくる際、環境は軽視されがちでした。
自然の生態系を破壊し景観を損なうことも、経済発展のための「必要悪」と考えられてきました。
その結果、戦後の日本は「世界の奇跡」といわれるような経済発展を実現しましたが、一方で日本の環境アセスメントの法制化は大幅に遅れてしまいました。
たとえば、OECD(経済協力開発機構)加盟二九力国のうち、法制化のない国は日本だけになっていました。
環境への配慮か国の風格を表す時代に、先進国の中で唯一開発優先思想にとどまっているのは、なんとも気恥ずかしい思いがありました。
環境アセスメント制度は、六九年にアメリカで初めて法制化されて以来、世界各国に急速に広がりました。
日本でも水俣病や四日市ぜんそくなどの深刻な公害の発生を背景に、七五年には、当時の環境庁長官が、中央公害対策審議会(中央環境審議会の前身)に対し、「環境影響評価制度のありかたについて」諮問しました。
これに対し、同審議会は七九年に、「速やかに環境影響評価の制度化を図られたい」との趣旨の答申を行いました。
これを受け、政府は八一年に「環境影響評価法案」を閣議決定し、国会に提出しました。
しかし同法案に対しては、開発優先志向が強い産業界や通産省、建設省などから強い反対があり、八三年の衆議院解散に伴い、廃案に追い込まれてしまいました。
法案は流れたとはいえ、大型事業に対する環境アセスメントを無視することはできず、政府は八四年に「環境影響評価の実施について」の閣議決定を行い、環境影響評価実施要綱(通称閣議アセス)が定められました。
発電所については、別途通産省省議決定(通産省アセス)で実施することになりました。
つまり、法律によらず、行政指導で環境アセスメントを行う変則的な方法が採用されたわけです。
以来、今日まで十数年、アセス法の法制化の動きは何度か試みられましたが、そのつど通産省や建設省などの反対にあい、日の目をみることはありませんでした。
②時代の追い風に乗るしかし、九〇年代に入り、バブル景気のあとの長い平成不況を経ると、人々の意識は、開発よりも環境重視の方向に急速に変わってきました。
その理由の第一は、地球規模の環境破壊が深刻になってきたことです。
すでに指摘したように、地球の温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨などが同時進行し始め、九二年の地球サミットでは、環境破壊への危機が強く表明されました。
日本もそうした時代の変化を受け、九三年には環境基本法が成立、九四年には環境基本計画が閣議決定され、そのいずれも早期の環境アセスメントの法制化を求めていたことは、前節でも指摘した通りです。
第二は、行政手続きの透明化を促進するため、九三年に行政手続法が制定されたことです。
閣議アセスは行政指導で行われてきましたが、行政手続法の施行に伴い、行政指導による閣議アセスは、同法に抵触する恐れが強まりました。
第三は、地方自治体先行で、環境アセスメントがすでに実施され、充実してきていることです。
たとえば、九七年一月現在、全国五九の都道府県、政令指定都市のうち、五一団体がすでに条例・要綱などの形で独自の環境影響評価制度を持っています。
その中には、閣議アセスよりも事業対象を広げ、内容的にも優れているものが少なくありません。
このような時代の要請を受け、中央環境審議会は九六年六月、橋本首相(当時)から、「今後の環境影響評価制度の在り方について」諮問を受けました。
約七ヵ月の集中審議ののち、九七年二月に「速やかな環境影響評価の法制化を図られたい」とする内容の答申を行い、これをもとに環境アセスメント法案が国会に提出され、冒頭で指摘したように成立したわけです。
閣議アセスでは、住民にアセス情報が適正に開示され、発言の機会が与えられる法的保障がありませんでした。
さらにアセスメントの対象事業が限定されており、アセスメントの実施時期、代替案の提示義務、許認可との関係、自治体の条例・要綱との調整など不備な点が多く、手続き面でも透明性を欠いていました。
新アセス法では、これらの欠点が大幅に改善され、法的手続きも明確になりました。
まず第一に、アセスメントの事業対象が大幅に広がったことです。
閣議アセスでは、事業対象を、国が関与する道路、ダム、鉄道、飛行場など一一種の大規模事業と通産省アセスの発電所に限定していました。
これに対し、新アセス法は、これらの事業(第一種事業)のほかに、環境に大きな影響を与えるとみられる事業(第二種事業)についても、一定の手続きを経て、その事業内容や地域特性を踏まえ、個別に環境評価を行うことが適切かどうかを判断する手続き(スクリーニング)が導入され、アセスが必要と判断されれば、アセスの対象にすることが可能になりました。
第二に、事業計画の早期の段階で、環境アセスに必要な情報が住民や地方自治体に提供され、準備書に反映させる手続きが定められたことです。
閣議アセスでは、準備書の段階で情報が提供されますが、その段階では事業の概略がほぽ固まってしまっており、事実上修正が不可能になっています。
このため、この段階での情報提供は「計画の追認に過ぎない」との強い批判がありました。
第三に、評価の審査にあたって、環境庁長官が必要に応じて、意見を述べることができるようになったことです。
旧制度(閣議アセス)では、意見を求められたときのみ、環境庁長官は意見を述べられるに過ぎず、このため環境保全に支障があると思われる事業について特に注文をつけることができませんでした。
このほか、アセス法では、事業対象によって、アセスの調査項目を絞り込む手続き(スコーピング手続き)も明確にしています。
また、通産省の強い反対があった発電所も、アセス法の対象事業に含まれ、統一的な制度になったことも新しい特徴です。
一方アセス法は、国と地方自治体のアセスが重複した場合、「国の制度のみを適用する」と定めています。
この点については、「国より進んだ制度を持つ自治体にとって、環境行政の後退を招く」との批判があります。
この指摘はもっともで、スコーピング段階、準備書段階で、住民や自治体の意見を十分に反映させ、アセス法を弾力的に運用していく姿勢が求められます。
アセス法は、事業者が自らの責任で、事業を始める前に事業か環境に及ぼすと考えられる影響について調査、予測、評価し、さらに住民の意見や情報などを参考にしながら、環境保全のために必要な配慮を事業計画の中に組み入れることを義稗づける法律です。
開発の主体である事業者にとっては、手続きの煩わしさや事業開始までに時間がかかりすぎるなどの問題があり、できるだけ運用の簡素化を願うでしょう。
一方、開発に伴う環境破壊を懸念する地元住民や自治体にとっては、開発抑制の砦として同法を利用したいとの思惑があります。
この両者の折り合いをつけるのがアセス法です。
従ってアセス法に薬づく事業決定は、もともと両者にとって一〇〇%満足のいく結果にはならないはずです。
ただ、これまでの日本は、開発優先で走ってきました。
その結果、自然環境を大幅に悪化させてきたことは事実です。
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